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68 68 I Arrived At The Port Town



「マルシュ行きは今日はもうないんですか?」

スタッフらしき人に声をかける。

「お嬢ちゃん、マルシュ行きの便は今欠航中だ。なんでもジュドールにある船舶会社の親会社が、無期限に航路を引き揚げると決定をしたそうだ。政情が不安定だからかねえ?」

「えーーーっ!」

誰?そんないらんことしたヤツわぁ!

「誰か個人で連れていってくれる人、いませんかね?」

「そーだな、船持ってて、手が空いてるやつ……まあ金次第だ。ギルドで依頼したらどうだ」

「なるほど。すいません、冒険者ギルドはどこですか?」

「ギルドは、そこの、ほら、茶色い屋根の、三階建ての建物だ」

「ありがとうございます」

トボスギルドはちょっとした軽食を食べられるレストランを併設していた。私は港町スープを食べながら、依頼の綴じてあるバインダーに目を通す。

スープはザリガニもどきやムール貝もどきがどっさり入っていて、ニンニクが効いていて美味しい。久しぶりに、人の手で作られたものを食べて心がジンワリする。

ミユも私の胸ポケットから顔を出し、チロチロとスープを舐める。

『セレちゃま。なんでマルシュに行きたいの?』

「木を隠すなら、森って言葉があるの。今マルシュは内乱中で、人々は慌てふためいてる。みんな自分の安全しか興味ないでしょうし、上手く紛れ込めば、小娘一人、見つけられないかなあって」

『ふむふむ』

「航路も閉鎖されてるっていうのには驚いた。でもそれって、渡ってしまえばますます追ってこられないってことでしょ?」

『そっかあ!セレちゃま、アッタマいーい!』

「おい!」

不意に声をかけられ上を見ると、デカイ、お世辞にも清潔そうには見えない酔っ払いが立っていた。

「こーんなところで何してんだあ?かわいこちゃん!一人で食ってても楽しくないだろ?ちょっと俺のテーブルで酌しろや!」

な、懐かしい……

前世、下っ端にのみ強気に出る、こういう上司いたなあ。

「すいません。遠慮しまーす」

「ああん?聞こえねえなあ?いいからこっち来い!」

酔っ払いが私の腕を掴んだ。私は慌てず騒がず捻りあげようとしたが、その前に、二つの魔法が発動!

1個目、私がミユたんに施した反射魔法。ミユたんは今私にひっついてるからミユたんに攻撃されたのと同じと判断したようだ。物理にも効いたか?私やるな!

2個目、私をこの地への着地以来過保護に包む…………ギレンの風魔法。

バシーン!

酔っ払いはぶっ飛ばされて、壁に叩きつけられた。

『セレちゃまに触れるなど……身の程しらずめ』

カウンターにいた男性職員が慌ててやってくる。

「こ、困ります!騒動は!」

「そう言ったって、勝手に絡んできたのはこの人だよ?」

「この人は、この島の唯一のD級なんだ!なんてことしてくれたんだ!へそ曲げて、依頼受けてくれなくなるじゃないか!そもそも女一人でギルドに来てるあんたが悪い。可愛い顔してんだから絡まれるのしょうがないだろ!」

「私が悪いって言いたいの?」

私は……少々殺気を垂れ流す。

私は……ここんとこ色々あって……そう見えないでしょうが怒りを心に溜め込んでまして……導火線通常よりもずっと短い状態ですが?

「ひっ!」

職員がカウンターの中に逃げ帰る。

私はイライラとスープを飲み干して、手に持った依頼バインダーから3枚抜き取りカウンターへ向かう。

「ねえ」

「は、はひ!」

「この、2年以上氷漬けになってる、B依頼3件受けてあげる」

私は胸元からプレートを取り出し、チラリと見せる。

「ひいい!ト、トランドルのゴールド!」

ギャラリーがざわつく。トランドルのプレート国外でも通用するのね。さすがご先祖様!先輩方!

「そこの酔っ払いができないことしてあげるって言ってるの。そのかわり、報酬はねえ……ちょっとマルシュに乗せて行ってくれるだけでいいわ。悪くないでしょ?」

職員はバタバタとギルドを飛び出したかと思えば、白い髭を蓄えた老人を連れてやってきた。

「あなたがギルド長ですか?」

「わしはトボスの町長じゃ。小さな街ゆえギルド長も兼務しとる。正直に言って肩書きだけじゃ。冒険者としての実績はない」

「でも、ギルド長はギルド長。どうですか?私の提案、受けますか?」

「ふむ……、一つ目は近海を荒らす大ダコ退治。二つ目はカビラの滝の裏の神殿を清めること。三つ目はギジナ山頂上のスッキリ草の採取。お嬢さん、この三つ本当に出来るのかね?」

「漁の仕方はわかりませんが、タコはおびき出してもらえるんですよね?ならいけますけど?」

「そ、そうか……わかった。ギルド長として、町長として、この申し出ありがたく受け入れよう。とても助かる。マルシュへの船は、三つの問題が片付いたら、あてがあるゆえ安心するとええ」

「口約束はダメでーす!きちんと書面にしてください」

書面にしても反故されたしね!

◇◇◇

はい、手続きが済むと早速船を出してもらって、まず一つ目の依頼の大ダコポイントにやってきましたー!とっとと先に進みたいからね。時は金なり。

地元の漁師、髪もヒゲもぼうぼう伸び放題、ムキムキワイルドな海の男ガンさんが、森で捕まえたアライグマのようなものを海に放り込む。

「タコって肉食なの?」

「こいつはなんでも食う!このあたりの海のもんは食いつくされてっから、陸のもんでもエサにしねえと……来た!掴まれ!」

大波で船が傾き、ヘリにしっかりと掴まる。海面がズンズン隆起し、バシャーンと海水が煽られて、頭のてっぺんからグッショリ濡れた。そして、

「へーえ?」

目の前に大ダコが現れ、船に足を巻きつけた!

なんていうか、思ったより小さい。イチジョウベッコウガメとおんなじくらい?全長3メートルってとこ。そりゃそうか。所詮はタコだもんね。あの幼いころ出会った見上げるほどあるモノノケ大鹿を想定してしまった。

「じゃ、サクッと雷でやっちゃうね。」

『セレちゃま、ここはミユに任せて!まだミユ、役に立てるとこ、セレちゃまに見せてないもの!』

「え?もはやミユたんが強いこと、疑ってもいないけど……まあいいや。んじゃよろしく!」

ミユたんはちゅるんと私のポケットから出ると、ピカッと光って元の大きさになった。ん?ちょっと大きくなったね。私と同じくらいの長さだ。

「へ、ヘビィ!」

海の男ガンさんが腰を抜かす。

ミユたんはスルスルと大ダコに怖れることもなく近づいた。

『せーの!カップン!』

船に絡みついた脚にカプリと噛み付いたと思ったら……音をたてて吸い込み出した!

ギュルギュルギュルギュルーーー!

「ま、丸呑みなのーーーーぉ!!!」

『ぎゅるぎゅるごっくん。おちまい』

ザザーン……

海は鏡のような凪を、取り戻した…………

「み、ミユたん、お腹大丈夫?」

『あ、』

「ど、どしたの!」

『このタコ、この辺りで一番強い支配者だったみたい。でもミユがごっくんしたから、東の海の王者にたった今ミユがなっちゃいましたー!この辺りの水中生物はみーんなミユの言うこと、聞くんだってー!』

一飲みで、カーストのトップに君臨………

私のかわゆいミユたんが……竜宮城の女王になってしまった……


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